仙台地方裁判所 昭和49年(タ)19号 判決 1974年10月08日
原告 甲野太郎
右訴訟代理人弁護士 加藤朔郎
被告 甲野花子
主文
一、原告と被告とを離婚する。
二、原、被告間の二女竹子(昭和三一年四月二三日生)、三女梅子(昭和三四年五月一六日生)、四女月子(昭和三五年一〇月一〇日生)、長男一郎(昭和四三年五月一二日生)の親権者を原告と定める。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
事実
一、原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、
(一) 原告と被告とは昭和二四年に事実上の結婚をして同居をはじめ、昭和二七年八月七日に、婚姻の届出をした夫婦である。
原、被告間には、長女松子(昭和二七年八月四日生、昭和四三年一一月二五日死亡)が生まれたほか、二女竹子(昭和三一年四月二三日生)、三女梅子(昭和三四年五月一六日生)、四女月子(昭和三五年一〇月一〇日生)、長男一郎(昭和四三年五月一二日生)が出生している。
(二) 被告は昭和三七年ころ、創価学会に入信し、熱心な会員となり、折伏活動として原告の親類、知人につよく同会への入信を勧めその人々に多くの迷惑をかけるようになった。
(三) 原告は、被告が同会に入信すること自体には特に反対はせず、ただ知人等に迷惑をかけるような行動はつつしむよう求めたが、被告は、これに耳を傾けないばかりか、家庭生活をも省りみないで同会の折伏などの活動に専念していた。
(四) そのために原告と被告は昭和三九年ころ、二ヶ月位別居したが、和解を勧める人もあり、やり直しをはかった。しかし、被告は従来の態度をあらためず、ついに昭和四四年六月被告は家を出てその後は全く帰宅せず現在まで別居をつづけている。
右のような被告の行為は婚姻を継続し難い重大な事由がある場合に相当するので、原告は被告に対し離婚を請求するとともに、幼い子供達を家に残し、数年間放置している被告は親権者としてふさわしくないので(一)記載の未成年の子四人の親権者を原告と定めるよう求める。
と述べ(た。)証拠≪省略≫
二、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、
(一) 請求原因事実第一項は認める。
(二) 同第二項のうち、被告が創価学会に入信し、その会員になったことは認める。その余は否認する。
(三) 同第三項は否認する。
(四) 同第四項のように原、被告が別居していることは認める。
と述べ、さらに別紙のとおり主張し、甲第一号証の成立を認めた。
三、裁判所は職権で、被告本人を尋問した。
理由
一、原告と被告とが昭和二七年八月七日に婚姻の届出をした夫婦であり、現在原、被告間に、二女竹子(昭和三一年四月二三日生)、三女梅子(昭和三四年五月一六日生)、四女月子(昭和三五年一〇月一〇日生)、長男一郎(昭和四三年五月一二日生)、の四人の未成年の子がいることは、≪証拠省略≫によって明らかである。
二、そして≪証拠省略≫を総合すると、次のような事実が認められる。
すなわち、原、被告間の長女松子は生後二才位で疫痢にかかって知能の発達が遅れ、長じても身の廻りの仕末もできない状態であったうえに、原、被告間には二女竹子、三女梅子、四女月子と次々に出生したため、被告は家業の農業と育児に追われる日が続いていたが、昭和四〇年頃人のすすめで創価学会に入信した。そして入信後は折伏などの布教活動を熱心にするようになって家事や育児もおろそかになるようになってしまったうえに、原告の親類などにも押しかけて強引に布教活動をしたために、もともと被告の入信を快くおもっていなかった原告や原告の父母との間の折合が悪くなるようになってしまった。そのうえ被告は昭和四〇年頃原告らに嘘をいって単身創価学会の大石寺参詣のため家をあけたりしたことがあって原告の怒りを買い、被告の実家へ戻されたうえ約二ヶ月のちに爾後の生活をあらためるという約束で、漸く原告と同居するようになった。
その後長男一郎が昭和四三年五月一二日出生し、同年一一月二五日には長女松子が死亡したのであるが、その頃から被告はふたたび宗教活動のために家事や育児をおろそかにするようになったため、原告との間も不仲になり寝室をともにすることもないような事態になってしまった。そのうえ被告は昭和四五年頃、自ら原告の家を出てしまい、四名の未成年者の子の養育は原告やその両親に全くまかせたまま、被告自らは野菜の行商等をして生活をたて単身別居するようになって今日にいたっている。そして右のように、幼児を残して家出をしたような被告の態度のために原告も立腹し、今日では婚姻関係を継続する意思が全くなくなっているという事実が認められるのであり、右の認定を左右するにたる証拠はない。
以上のような原告と被告との結婚生活の経緯とくに被告の家出とそれに対する原告の感情を考察すると原告、被告間の婚姻関係には、これを継続し難い重大な事由が存するものと解するのが相当であり、自らを反省し、婚姻関係を継続したいと念願する被告の心情も右のような客観的状態を覆えすには足りない。
二、なお被告は、前示のように二度目の家出をする動機が原告と訴外Aとの不倫な関係が原因であったと主張している。≪証拠省略≫によると、被告が家出する前に原告が叔母の依頼でその居宅の一室をA母子に間貸しした事実や、被告が家出したのち原告がその子供の養育等のためにAと同居するにいたっている事実は一応明らかである。しかし、被告が前示のように二度目の家出をする以前に原告とAが不倫な関係にあったかどうかはこれを断定するに足る証拠はなく、原告がAと同居するにいたったことは被告の長期間の家出にともなって原告が幼児四名の養育や家事に女手が必要であったという事情が伴なっていることを勘案すると、原告とAの関係が、原告の離婚請求権を否定すべき程度の有責事由に達しているとは認め難いのであり、≪証拠省略≫もいまだ右の判断を左右するに足りないといわざるを得ない。
三、右のような次第で原告の離婚請求を認容することになるが前示一記載の未成年者の子四名の親権者については、右に認定したように被告の家出ののち原告がその養育にあたってきており、被告とその子の間には殆んどゆききのないような状態であることを考えると、右の未成年者の子四名の親権者は原告と定めるのが相当である。
四、以上のとおり原告の請求をすべて認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 守屋克彦)
<以下省略>